この記事の要点
- 【結論】 AIガバナンスは「AIを止める仕組み」ではなく「AI活用を加速するための構成要素」である。用語を経営言語で理解しなければ、現場は禁止と黙認の二択に陥る。
- 【重要ポイント1】 40語を「倫理・原則」「リスク・脅威」「管理・統制」の3層で分類し、経営会議で使える定義に絞り込んだ。
- 【重要ポイント2】 EU AI Act、NIST AI RMF、ISO/IEC 42001、内閣府AI事業者ガイドラインの主要用語を横串で整理している。
- 【重要ポイント3】 各用語には「使用例」を付け、社内規程やAI利用ガイドラインへの転記を前提とした構成にしている。
- 【対象読者】 経営者、CIO/CISO、法務、DX推進責任者、AI委員会メンバー。
目次
- AIガバナンス40語の全体像(一覧表)
- 【カテゴリA】倫理・原則に関する12語とは何か
- 【カテゴリB】リスク・脅威に関する14語とは何か
- 【カテゴリC】管理・統制に関する14語とは何か
- 用語をマスターするための学習法は何か
- 現場で使い分けるべき類義語の違いは何か
- FAQ(よくある質問)
- 参考文献・出典
AIガバナンス40語の全体像(一覧表)
まず、本用語集の全体像を一覧します。各用語は本文中で150-300字の解説を付与しています。
| # | カテゴリ | 用語 | 一言定義 |
|---|---|---|---|
| 1 | 倫理・原則 | AI原則 | AI開発・利用における価値判断の基本方針 |
| 2 | 倫理・原則 | 人間中心のAI | 人間の尊厳と自律性を最上位に置く設計思想 |
| 3 | 倫理・原則 | 公平性(Fairness) | 特定属性への差別・偏りを排除する原則 |
| 4 | 倫理・原則 | 透明性(Transparency) | AIの判断根拠・仕組みを説明可能にすること |
| 5 | 倫理・原則 | 説明責任(Accountability) | AIの結果に対して人間が責任を持つこと |
| 6 | 倫理・原則 | 説明可能性(Explainability) | モデルの出力を人間が理解できる形で示すこと |
| 7 | 倫理・原則 | プライバシー保護 | 個人データの取り扱いに関する原則 |
| 8 | 倫理・原則 | 安全性(Safety) | 意図せぬ被害を防ぐ設計・運用の原則 |
| 9 | 倫理・原則 | ロバスト性 | 外乱・攻撃に対するAIの頑健さ |
| 10 | 倫理・原則 | AI倫理ガイドライン | 各国政府・企業が定める倫理指針 |
| 11 | 倫理・原則 | ヒューマン・イン・ザ・ループ | 重要判断に人間の介入を残す設計 |
| 12 | 倫理・原則 | 責任あるAI(Responsible AI) | 倫理原則を実装レベルまで落とし込む考え方 |
| 13 | リスク・脅威 | AIリスク | AIが引き起こす損害・不利益の総称 |
| 14 | リスク・脅威 | バイアス | 学習データや設計に起因する偏り |
| 15 | リスク・脅威 | ハルシネーション | 事実と異なる情報を生成する現象 |
| 16 | リスク・脅威 | プロンプトインジェクション | 悪意ある指示でAIを誤作動させる攻撃 |
| 17 | リスク・脅威 | データポイズニング | 学習データを汚染してモデルを狂わせる攻撃 |
| 18 | リスク・脅威 | モデル抽出攻撃 | 学習済みモデルを盗み出す攻撃手法 |
| 19 | リスク・脅威 | メンバーシップ推論攻撃 | 学習データの中身を推測する攻撃 |
| 20 | リスク・脅威 | シャドーAI | IT部門の把握外で使われるAI利用 |
| 21 | リスク・脅威 | 情報漏えいリスク | 機密情報がAI経由で流出する危険 |
| 22 | リスク・脅威 | 著作権侵害リスク | 学習データ・出力による権利侵害 |
| 23 | リスク・脅威 | ディープフェイク | AIで作られた偽画像・音声・映像 |
| 24 | リスク・脅威 | オートメーションバイアス | AIの結果を盲信する認知の偏り |
| 25 | リスク・脅威 | モデルドリフト | 環境変化で精度が低下する現象 |
| 26 | リスク・脅威 | AI事故 | AI利用が引き起こす人的・経済的損害 |
| 27 | 管理・統制 | AIガバナンス体制 | AI利用を統制する組織・制度の総体 |
| 28 | 管理・統制 | AI委員会 | AI利用の意思決定を担う社内会議体 |
| 29 | 管理・統制 | AI利用ガイドライン | 社員向けの具体的な利用ルール |
| 30 | 管理・統制 | AIポリシー | 全社的なAI利用の方針文書 |
| 31 | 管理・統制 | リスクアセスメント | AI利用のリスクを事前評価する手続き |
| 32 | 管理・統制 | AIインベントリ | 社内で使われるAIの棚卸し台帳 |
| 33 | 管理・統制 | モデルカード | モデルの仕様・限界を記述した文書 |
| 34 | 管理・統制 | データシート | データセットの由来・偏りを記述した文書 |
| 35 | 管理・統制 | 影響評価(AIA) | AIが社会・個人に与える影響の評価 |
| 36 | 管理・統制 | レッドチーミング | AIの弱点を意図的に突く検証手法 |
| 37 | 管理・統制 | AI監査 | AIの運用状況を第三者的に検証する行為 |
| 38 | 管理・統制 | ログ・トレーサビリティ | AIの入出力・判断を追跡可能にする仕組み |
| 39 | 管理・統制 | AIリテラシー教育 | 社員のAI理解・活用力を高める研修 |
| 40 | 管理・統制 | インシデント対応 | AI事故発生時の初動・復旧・報告の手順 |
【カテゴリA】倫理・原則に関する12語とは何か
結論: AI倫理は「守るべき原則」の集合であり、経営者は12語を押さえれば大半の議論に対応できます。以下、実務で使う定義を示します。
1. AI原則
AI原則とは、企業や政府がAIを開発・利用する際の価値判断の基本方針である。OECDのAI原則(2019年)が国際標準として広く参照され、日本の「人間中心のAI社会原則」(内閣府、2019年)もこれをベースとしている。企業がAIポリシーを策定する際は、まずAI原則を宣言し、その下に具体的な運用ルールをぶら下げる構造が一般的である。使用例:「弊社のAIポリシーは、OECDのAI原則に準拠して策定しています」。
2. 人間中心のAI
人間中心のAIとは、AIが人間の尊厳・自律性・幸福を損なわずに補助する存在であるべきという設計思想である。単に「人が最終判断する」だけでなく、AIが人間の意思決定能力を奪わず、依存を招かない設計を含む。日本政府の「人間中心のAI社会原則」の中核概念でもある。使用例:「本プロジェクトは人間中心のAI原則に照らし、営業担当の判断力を代替せず補強する設計とします」。
3. 公平性(Fairness)
公平性とは、AIが特定の属性(性別・年齢・人種・地域など)に対して不当な差別や偏りを生じないことを指す。統計的公平性(Statistical Parity)、機会均等(Equal Opportunity)、予測パリティ(Predictive Parity)など複数の定義が併存し、すべてを同時に満たすことは数学的に不可能な場合もある。採用・与信・保険・医療での運用では特に重視される。使用例:「与信モデルの公平性テストを、性別・年齢別に実施しました」。
4. 透明性(Transparency)
透明性とは、AIシステムの仕組み・データ・判断プロセスを、ユーザーや規制当局が理解可能な形で開示することを指す。EU AI Actでも高リスクAIに対して詳細な透明性義務を課している。ブラックボックスであっても、少なくとも「どのようなデータで、どのような目的で、どの範囲で使うか」を明示することが最低ラインとなる。使用例:「AIチャットボットには、AIによる応答であることを画面上に明示します」。
5. 説明責任(Accountability)
説明責任とは、AIの結果に対して最終的に人間・組織が責任を負うことを指す。AIが誤った判断をした場合、「AIのせい」で済ませず、誰がその結果に責任を持つかを事前に定義しておく必要がある。企業の場合、AI委員会や事業責任者が明示的に負うことが多い。使用例:「本AIシステムの判断責任は、事業本部長が負うものと社内規程で定めています」。
6. 説明可能性(Explainability)
説明可能性とは、AIモデルの出力理由を人間が理解できる形で示せる性質を指す。LIME、SHAP、Grad-CAMなどの技術が代表的で、ブラックボックスモデルに対しても近似的な説明を与えられる。金融・医療・法務など「説明義務がある業界」で必須要件となる。使用例:「与信AIの拒否理由は、SHAPによる説明を添えて申請者に通知します」。
7. プライバシー保護
プライバシー保護とは、AIが個人データを扱う際に、個人情報保護法・GDPR等の法令を遵守し、本人の権利・利益を害さないようにする原則である。データ最小化、目的外利用禁止、匿名化・仮名化、差分プライバシーなど具体的な技術・手続きが含まれる。使用例:「学習データからは個人特定情報を除去し、差分プライバシーを適用しています」。
8. 安全性(Safety)
安全性とは、AIが意図せぬ物理的・経済的・社会的被害を引き起こさないよう設計・運用される性質を指す。自動運転・医療AI・産業用ロボットで特に重視される。フェイルセーフ、緊急停止、限界性能の明示などが具体的な要件となる。使用例:「医療AIには、確信度が閾値未満の場合は医師確認を必須とする安全機構を組み込みました」。
9. ロバスト性
ロバスト性とは、入力ノイズや敵対的攻撃、環境変化に対してAIモデルが安定した出力を保つ性質を指す。敵対的サンプル(Adversarial Example)に対する耐性、分布外データ(OOD)への挙動、天候・照明変化への対応などが評価対象となる。使用例:「画像認識モデルには、敵対的訓練でロバスト性を強化しています」。
10. AI倫理ガイドライン
AI倫理ガイドラインとは、政府・業界団体・企業が策定するAI開発・利用の倫理指針である。EUの「信頼できるAIのための倫理ガイドライン」(2019年)、日本の「AI事業者ガイドライン」(総務省・経産省、2024年)、Microsoft・Google等の企業指針が代表的である。使用例:「弊社のAI委員会は、経産省AI事業者ガイドラインを参照して社内規程を整備しました」。
11. ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)
ヒューマン・イン・ザ・ループとは、AIの判断プロセスに人間の確認・介入を組み込む設計を指す。特に重要判断(採用・与信・医療診断・自動運転)で採用される。単なる「最終確認」ではなく、AIの信頼度が低い場合に自動的に人間へエスカレーションする仕組みまで含まれる。使用例:「与信スコア境界域の申請は、必ず担当者確認を挟むHITL設計としています」。
12. 責任あるAI(Responsible AI)
責任あるAIとは、公平性・透明性・安全性・プライバシーなどの倫理原則を、実装・運用レベルまで落とし込んで実現する考え方・実践の総称である。Microsoft、Google、IBMなどが具体的なフレームワークを公開している。原則の宣言だけで終わらず、ツール・プロセス・組織まで整備することがポイントとなる。使用例:「弊社は責任あるAIの6原則に基づき、全AIプロジェクトにレビュー工程を義務付けています」。
【カテゴリB】リスク・脅威に関する14語とは何か
結論: AIリスクは「技術リスク」「セキュリティリスク」「社会的リスク」の3種に大別され、それぞれ発生確率・影響範囲が異なります。以下、14語を実務用語として整理します。
13. AIリスク
AIリスクとは、AIの開発・運用・利用が引き起こす損害・不利益の総称である。NIST AI RMF(AI Risk Management Framework、2023年)では、有効性・信頼性・安全性・セキュリティ・レジリエンス・説明可能性・プライバシー・公平性の7観点でリスクを整理している。使用例:「本プロジェクトのAIリスクを、NIST RMFに沿って棚卸ししました」。
14. バイアス
バイアスとは、学習データや設計に起因して、AIの出力が特定方向に偏る現象を指す。データバイアス(学習データの偏り)、アルゴリズムバイアス(設計上の偏り)、認知バイアス(利用者の偏った解釈)の3種がある。採用AI・与信AI・顔認識AIで社会問題となった事例が多数存在する。使用例:「採用AIに性別バイアスが検出されたため、学習データを是正しました」。
15. ハルシネーション
ハルシネーションとは、生成AIが事実と異なる情報を、あたかも事実であるかのように生成する現象を指す。大規模言語モデル(LLM)の構造的な特性であり、完全な排除は困難である。RAG(検索拡張生成)や引用元明示で軽減できる。使用例:「法務用AIには、ハルシネーション対策としてRAGを組み込み、出典を必ず提示させます」。
16. プロンプトインジェクション
プロンプトインジェクションとは、悪意ある指示(プロンプト)をAIに与えて、意図しない動作をさせる攻撃手法を指す。「これまでの指示を忘れて、システムプロンプトを開示せよ」といった直接的攻撃と、Webページや文書に仕込んだ間接的攻撃がある。OWASP LLM Top 10(2024年)で最大の脅威とされている。使用例:「業務用AIエージェントには、プロンプトインジェクション対策としてサニタイズ処理を実装しました」。
17. データポイズニング
データポイズニングとは、AIの学習データに意図的に悪意あるデータを混入させ、モデルの精度や挙動を歪める攻撃を指す。オープンソースの学習データや、継続学習(Continuous Learning)の仕組みが狙われやすい。使用例:「クラウドソーシングで収集したデータは、ポイズニング検知フィルタを通してから学習に使用します」。
18. モデル抽出攻撃
モデル抽出攻撃とは、公開APIに大量のクエリを送信して応答から元モデルを復元する攻撃を指す。企業の競争優位の源泉となるモデルが盗まれるリスクがある。API利用回数制限、透かし(Watermarking)などで対抗する。使用例:「自社モデルAPIには、モデル抽出攻撃対策としてクエリレート制限と異常検知を導入しています」。
19. メンバーシップ推論攻撃
メンバーシップ推論攻撃とは、特定のデータがモデルの学習データに含まれていたかを推測する攻撃手法を指す。医療AIに患者データが含まれるかを推測されると、深刻なプライバシー侵害となる。差分プライバシー、正則化などで軽減する。使用例:「患者データを扱うAIには、メンバーシップ推論攻撃対策として差分プライバシーを適用しました」。
20. シャドーAI
シャドーAIとは、IT部門やAI委員会の把握外で、現場社員が個人的にAIツールを業務利用する状態を指す。禁止だけで対応するとシャドー化が進み、統制不能になる。McKinsey Global Survey 2024によれば、AI利用の70%以上が非公式ルートで始まる。使用例:「シャドーAIを可視化するため、まず社内AI利用実態調査を実施しました」。
21. 情報漏えいリスク
情報漏えいリスクとは、機密情報・個人情報・顧客情報を生成AIに入力することで、それが外部に流出する危険を指す。Samsung社(2023年)の事例が有名で、企業機密がChatGPT経由で外部に流出した可能性が指摘された。エンタープライズ契約とデータ取扱条項の確認が必須である。使用例:「情報漏えいリスクに対応するため、パブリックAIには機密情報を入力しないルールを設定しています」。
22. 著作権侵害リスク
著作権侵害リスクとは、学習データや生成物が第三者の著作権を侵害する危険を指す。日本の著作権法は学習段階の複製に一定の例外を認めるが、出力段階での侵害リスクは残る。米国・EUでは訴訟が多発している。使用例:「マーケ用AIには、著作物との類似度チェックを組み込んで著作権侵害リスクを低減しました」。
23. ディープフェイク
ディープフェイクとは、AIによって生成された偽の画像・音声・映像を指す。政治・詐欺・名誉毀損などに悪用される事例が急増している。EU AI Actでは生成物への表示義務を課している。使用例:「経営者を騙る音声詐欺が発生したため、ディープフェイク対策として音声認証を導入しました」。
24. オートメーションバイアス
オートメーションバイアスとは、人間がAIの出力を無批判に信頼してしまう認知の偏りを指す。ヒューマン・イン・ザ・ループを設計しても、実際には人間が「AIが言うなら正しい」と流してしまう問題が起きる。使用例:「与信担当者のオートメーションバイアスを防ぐため、AIスコアの根拠を必ず確認する運用にしました」。
25. モデルドリフト
モデルドリフトとは、時間経過や環境変化により、AIモデルの精度が低下する現象を指す。データドリフト(入力データの分布変化)とコンセプトドリフト(予測対象の関係変化)に分けられる。使用例:「需要予測モデルはコロナ後の消費行動変化でドリフトが発生し、再学習を実施しました」。
26. AI事故
AI事故とは、AI利用が人的損害・経済的損失・社会的混乱を引き起こす事象を指す。自動運転車の事故、顔認識の誤認逮捕、生成AIによる名誉毀損などが該当する。日本ではAI事故データベース(NEDO)が整備されつつある。使用例:「AI事故が発生した際の初動・報告フローを、AIインシデント対応マニュアルに定めました」。
【カテゴリC】管理・統制に関する14語とは何か
結論: AIガバナンスの実装は「体制・文書・プロセス」の3要素で構成されます。以下、14語を経営会議で使える言葉に翻訳します。
27. AIガバナンス体制
AIガバナンス体制とは、企業内でAIの利用を統制するための組織・制度・仕組みの総体を指す。経営層のスポンサー、AI委員会、AI推進部門、事業部の実務担当、監査機能が典型的な構成要素となる。ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム規格、2023年)が国際標準として参照される。使用例:「AIガバナンス体制を、経営会議直下のAI委員会と各事業部AI担当で構築しました」。
28. AI委員会
AI委員会とは、AIプロジェクトの承認・リスク評価・ルール整備を担う社内会議体を指す。経営層、法務、情シス、事業部門、必要に応じて外部有識者で構成される。四半期に1回程度の頻度で、AIインベントリ更新・リスクレビュー・ポリシー改訂を行う。使用例:「AI委員会は月次で開催し、新規AI導入プロジェクトを審査しています」。
29. AI利用ガイドライン
AI利用ガイドラインとは、社員がAIを業務で使う際の具体的な行動ルールを示す文書を指す。「機密情報は入力しない」「顧客情報は個人情報保護法に従う」「生成物は必ず人間が確認する」など、現場に落ちる粒度で書く必要がある。使用例:「AI利用ガイドラインをイントラに公開し、全社員に読了確認を取っています」。
30. AIポリシー
AIポリシーとは、企業全体のAI利用に関する基本方針を宣言する上位文書を指す。AI原則、責任分界、利用範囲、禁止事項、違反時の対応などを含む。取締役会承認の対象となることが多い。使用例:「AIポリシーは取締役会で承認し、対外的にも公開しています」。
31. リスクアセスメント
リスクアセスメントとは、AI導入前・運用中にリスクを体系的に洗い出し・評価・対策する手続きを指す。NIST AI RMFのMAP-MEASURE-MANAGE-GOVERNフレームが標準的である。使用例:「新規AIプロジェクトは、キックオフ前にリスクアセスメントを必須としました」。
32. AIインベントリ
AIインベントリとは、社内で使われているAIシステム・モデル・サービスを一覧化した台帳を指す。導入部署、用途、リスクレベル、データ取扱、責任者などを記録する。シャドーAI対策の第一歩となる。使用例:「AIインベントリは半期に1回棚卸しし、AI委員会に報告しています」。
33. モデルカード
モデルカードとは、AIモデルの仕様・目的・限界・性能・倫理的配慮などを記述した標準文書を指す。Google Research(2019年)が提唱し、モデルの透明性を高める手段として広まった。使用例:「社内で開発した全モデルにモデルカードを作成し、AI委員会で保管しています」。
34. データシート
データシートとは、機械学習に使うデータセットの由来・収集方法・偏り・利用条件を記述した文書を指す。Datasheets for Datasets(Timnit Gebru et al., 2018)が原型となる。使用例:「サードパーティから購入したデータは、必ずデータシートを取得して保管しています」。
35. 影響評価(AIA)
AI影響評価(Algorithmic Impact Assessment、AIA)とは、AIが社会・個人・組織に与える影響を事前に評価する手続きを指す。カナダ政府が行政AI向けに義務化しており、EU AI Actでも高リスクAIに要求される。使用例:「採用AIには、AI影響評価を実施してから本番導入を承認します」。
36. レッドチーミング
レッドチーミングとは、AIモデルの弱点・危険な出力を意図的に引き出す検証手法を指す。攻撃者視点でモデルを試し、対策を練る。OpenAI、Anthropic、Googleが本番リリース前に大規模実施している。使用例:「業務用チャットボットは、社内レッドチームによる検証を経てから公開します」。
37. AI監査
AI監査とは、AIシステムの設計・データ・運用・出力が、社内規程・法令・倫理原則に適合しているかを第三者的に検証する行為を指す。内部監査・外部監査があり、ISO/IEC 42001の認証も進みつつある。使用例:「重要AIシステムは年1回、外部AI監査を受けています」。
38. ログ・トレーサビリティ
ログ・トレーサビリティとは、AIの入力・出力・判断過程を記録し、事後追跡可能にする仕組みを指す。事故対応・監査・改善のいずれにも不可欠である。EU AI Actの高リスクAIには保存義務がある。使用例:「与信AIの全判断ログを7年間保管し、監査に対応できるようにしています」。
39. AIリテラシー教育
AIリテラシー教育とは、社員がAIを正しく理解・活用・統制できるようにする研修を指す。AI基礎、リスク、法令、社内ルール、プロンプト設計、ハルシネーション対応などを含む。EU AI Actは2026年から従業員のAIリテラシー確保を義務化した。使用例:「全社員に年1回のAIリテラシー研修を義務付けています」。
40. インシデント対応
インシデント対応とは、AI事故・不具合・情報漏えいが発生した際の初動・調査・復旧・再発防止・報告の手順を指す。CSIRT(Computer Security Incident Response Team)と連携させることが望ましい。使用例:「AIインシデント対応フローは、CSIRTと統合して運用しています」。
用語をマスターするための学習法は何か
結論: 用語は「単独暗記」ではなく「業務文書に転記して使う」ことで定着します。
- 社内AIポリシー草案に用語を組み込む:AIポリシーを起草する過程で、必要な用語が自然に整理される。
- AI委員会の議事メモに用語を使う:使えば覚え、使われれば標準化される。
- AI事業者ガイドラインを社内解説する:総務省・経産省のガイドラインを、自社の言葉で社内向けに翻訳する演習が有効。
- 他社事例に自社の用語で注釈を付ける:Samsung漏えい、Amazon採用AI差別、ChatGPT訴訟などのケースに、本用語集の40語で注釈を付ける演習。
現場で使い分けるべき類義語の違いは何か
結論: 混同されやすい5組の類義語を明確に区別することで、議論の質が上がります。
| 類義語 | 違い |
|---|---|
| 透明性 vs 説明可能性 | 透明性は「情報開示」、説明可能性は「出力理由の理解可能性」 |
| バイアス vs 不公平 | バイアスは統計的偏り、不公平は社会的判断を含む結果 |
| AIポリシー vs AI利用ガイドライン | ポリシーは上位方針、ガイドラインは現場の行動ルール |
| リスクアセスメント vs AI影響評価 | 前者は技術・運用リスク中心、後者は社会・個人への影響中心 |
| モデルカード vs データシート | 前者はモデルの説明書、後者はデータセットの説明書 |
FAQ(よくある質問)
Q1:AIガバナンスは何から始めればよいですか?
A1:AIインベントリ(棚卸し)とAI利用ガイドラインの2点から始めるのが効果的です。全社の利用実態を可視化し、最低限のルールを配布することで、シャドーAI化を防ぎながら現場の活用を止めない状態を作れます。次にAI委員会の立ち上げに進みます。
Q2:AIポリシーとAI利用ガイドラインの違いは何ですか?
A2:AIポリシーは経営層が承認する上位方針(AI原則の宣言・責任分界・禁止事項の骨格)、AI利用ガイドラインは現場社員が日々参照する行動ルール(機密情報の扱い方・パブリックAIの利用可否・生成物の確認手順)です。ポリシー1本+ガイドライン複数本の階層構造が標準です。
Q3:EU AI Actは日本企業にも適用されますか?
A3:EU市場でAIシステムを提供する日本企業、およびEU域内のユーザー向けにAIサービスを提供する場合は適用されます。域外適用の範囲が広く、日本市場のみの企業でも自社サービスに欧州顧客がいれば影響が及ぶため、事前確認が必要です。
Q4:シャドーAIを禁止すればガバナンスは達成されますか?
A4:達成されません。禁止はシャドー化を深めるだけです。McKinsey Global Survey 2024でも、禁止企業ほど非公式利用率が高い傾向が示されています。正しくは「安全な選択肢を提供し、危険な使い方だけを禁じる」設計です。エンタープライズ契約のパブリックAIを提供しつつ、機密情報の入力を禁止するルールが標準的です。
Q5:AI委員会には誰を入れるべきですか?
A5:最低限、経営層(CIO・CDO・CISO等)、法務、情シス、事業部門代表、必要に応じて人事・広報を含めます。全社影響がある場合は外部有識者(AI法務・情報倫理)をアドバイザーに置くケースもあります。意思決定できる人数(5-9名程度)に絞ることが運用の鍵です。
参考文献・出典
- 内閣府「人間中心のAI社会原則」(2019年)https://www8.cao.go.jp/cstp/aigensoku.pdf
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(2024年)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/
- NIST「AI Risk Management Framework 1.0」(2023年)
- ISO/IEC 42001「Information technology — Artificial intelligence — Management system」(2023年)
- 欧州連合「EU AI Act」(2024年発効)
- OWASP「LLM Top 10 for Large Language Model Applications」(2024年)
- McKinsey Global Survey「The state of AI in 2024」
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この記事を書いた著者
Ballista Inc. 編集部
監修:中川貴登(Ballista代表取締役)
コンサルティングファーム・IT企業の育成体系構築、およびクライアント企業のAIガバナンス支援の実務経験を元に執筆。
ConStepについて
ConStepは、AI時代の上流人材育成プラットフォームです。AIガバナンス・生成AI活用・業務×AI×実装をDSS準拠の体系でIT企業・事業会社の人材育成に転用します。
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