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AI時代の内製化トレンド:SIerは脅威か機会か

目次

概要

ユーザー企業のIT内製化が加速しています。経産省「DX白書2023」「DX白書2025」の調査でも、内製化を進める企業比率は年々上昇しています。SIerにとって、これは脅威に見える現象です。発注が減り、市場が縮む——そう感じている経営者は多くあります。しかし内製化トレンドを構造的に読み解くと、SIerにとって脅威であると同時に、構造的な機会でもあることが分かります。本稿では、内製化の本質と、SIerが取るべき戦略選択肢を、経営者目線で整理します。

内製化トレンドの実像

数字で見る内製化

経産省「DX白書2023」では、ユーザー企業のIT人材確保において「自社採用・育成」を選択する企業比率が、過去数年で着実に上昇していることが報告されています。同時に、DX人材育成への投資総額も拡大基調です。

経産省「デジタルスキル標準(DSS)」が2022年に策定され、2023年に改定されたことも、内製化を後押ししています。DSSにより、ユーザー企業側でも体系的なIT人材定義が可能になり、計画的な育成投資が進めやすくなりました。

ガートナーの2024年調査では、日本企業のIT人材における社内雇用比率が5年前と比較して上昇していることが示されています。10年前は欧米と日本の差が「ユーザー側30%対70%」と言われていましたが、その差は徐々に縮まりつつあります。

何が内製化されているか

ただし「内製化」と一括りにするのは雑な議論です。内製化されている領域と、依然として外部発注に依存する領域は、明確に分かれます。

内製化が進む領域

  • アジャイル開発が必要なWebサービス・モバイルアプリ
  • データ分析・BI構築
  • 業務改善のための簡易な自動化(RPA、ノーコード)
  • DXのコンセプト設計・要件定義
  • AIプロンプト設計・LLM活用

依然として外部依存が高い領域

  • 大規模基幹システムの構築・刷新
  • 複数業界・複数システムにまたがる統合プロジェクト
  • 高い専門性が必要な領域(金融、医療、SCMなど)
  • レガシーマイグレーション
  • セキュリティ・コンプライアンス対応

この分類を見ると、内製化されているのは「変化が速く、自社の競争力に直結する領域」です。一方、外部発注は「規模が大きく、専門性が必要で、競争力に直結しない領域」に集中しています。

内製化を加速している3つの要因

要因1:ビジネスのソフトウェア化

「Software is eating the world」というMarc Andreessenの2011年のフレーズは、今や日本企業にも当てはまります。顧客接点、業務プロセス、商品サービス——あらゆる領域がソフトウェアで動くようになりました。

ビジネスがソフトウェアに依存するほど、ソフトウェア開発を外部に丸ごと任せる経営判断のリスクは高まります。「自社のコアビジネスを動かすシステムは、自社で握る」という意思決定が、内製化を加速します。

要因2:AI活用による生産性の向上

生成AIの登場は、内製化のハードルを下げました。GitHub Copilot公式調査(2023)が示すコード生成速度55%向上、McKinseyが報告する2〜4倍の生産性向上——これらは、内製エンジニアの「実行できる範囲」を拡大しました。

10年前は「社内エンジニア5人では大規模システム開発は無理」だった企業が、AI活用により「社内エンジニア5人で十分な範囲」を持てるようになります。内製化の現実的な選択肢が広がっています。

要因3:経営層のDX理解の深化

DXがCXOアジェンダ化したことで、経営層自身が「ITが経営の中核」と認識するようになりました。経営の中核を外部依存にする選択は、経営層の意思として取りにくくなります。

「ITは情シスのもの」から「ITは経営のもの」へ——この認知シフトが、内製化を経営層の判断として後押ししています。

内製化は本当に脅威か:3つの誤解

SIer経営者の多くは、内製化を脅威と捉えています。しかし、その認識には3つの誤解があります。

誤解1:「内製化=SIer不要」

内製化が進んでも、SIerが不要になるわけではありません。先ほど整理したように、内製化されているのは「変化が速く、競争力に直結する領域」であり、SIerが従来担ってきた「大規模・専門性・統合」の領域は、内製化困難な領域です。

問題は、SIerが「内製化される領域」と「依然として外部発注される領域」の両方で人月モデルの汎用ベンダーとしてポジショニングしていることです。前者からは退出を迫られ、後者では海外勢や専門ベンダーとの競争が激化する——という挟み撃ちに遭います。

誤解2:「内製化=顧客との関係終了」

内製化を進める顧客は、SIerとの関係を切ろうとしているわけではありません。彼らが切りたいのは「丸投げ+人月積算」の関係であり、求めているのは「経営パートナーとしての高度な協業」です。

実際、内製化を進める企業ほど、特定領域のスペシャリストや戦略パートナーとして外部ベンダーを活用する傾向があります。「広く浅い人月発注」が減る代わりに、「狭く深いパートナー契約」のニーズは増えています。

誤解3:「内製化=SIer市場縮小」

市場規模で見ると、ITサービス市場全体は成長を続けています。IDC Japanの2024年予測では、国内ITサービス市場は2027年まで年5〜6%で成長する見通しです。内製化は「市場縮小」ではなく「市場の構造変化」と捉えるべきです。

縮小しているのは、「単純な人月開発の外部発注」というセグメントです。一方、AI関連、データ活用、業務改革、セキュリティ、専門領域——これらのセグメントは成長しています。SIerが対応するセグメントを移すことで、市場成長の恩恵を受けることは十分可能です。

内製化トレンドはSIerにとっての機会である

機会1:パートナー型ビジネスへの転換契機

内製化を進める顧客が求めているのは、「自社の内製チームを補強・育成し、戦略的に伴走するパートナー」です。これはまさに、Palantirが採用してきたFDE(Forward Deployed Engineer)モデルが提供する価値です。

人月で売る関係から、年間契約フィーで経営課題を共同で解くパートナー関係に転換する——内製化トレンドは、この転換の絶好の機会です。顧客の側にもパートナー型を受け入れる素地ができています。

機会2:高単価領域への集中

内製化が進むと、SIerは「広く浅く」では生き残れなくなります。これは、必然的に「狭く深く」への集中を促します。

特定業界・特定業務領域・特定技術領域——どこかに深い専門性を持つSIerは、顧客の内製チームでは代替できない価値を提供できます。結果として、人月単価ではなく「専門性プレミアム」で勝負できる領域に移行できます。

機会3:人材ポートフォリオ再構築の正当化

「内製化が進むので、当社も人月モデルから脱却する必要がある」——この説明は、社内の改革推進の強力な根拠になります。

組織変革には外圧が必要です。内製化トレンドは、SIer内部の保守派を説得するための、強力な外圧として活用できます。「現状維持の方がリスクが高い」と経営者が説明する材料を、市場が提供してくれているのです。

SIerが取るべき戦略選択肢:3つのポジション

内製化トレンドを踏まえ、SIerが取るべき戦略ポジションを3つに整理します。自社の強みと顧客基盤に応じて、どれを選ぶかを経営判断する必要があります。

ポジション1:パートナー型SIer

顧客の経営課題に深く入り込み、内製チームと共同でソフトウェア構築・運用を行うポジションです。報酬は年間パートナー契約フィー、または成果連動型。

必要な能力は、FDE型人材、業務理解力、コンサルティング能力、データ・AI技術力。Palantirモデルの日本版です。

このポジションを取るには、人材ポートフォリオの抜本的再構築が必要です。エンジニア層の上流化・コンサル化を計画的に進める必要があります。

ポジション2:特化型SIer

特定業界(製造、金融、医療、流通など)または特定技術領域(AI、データ、セキュリティなど)に集中するポジションです。報酬は専門性プレミアム+固定契約。

必要な能力は、業界知識の組織資産化、専門人材の深い育成、業界内ネットワーク。

このポジションを取るには、注力業界・技術領域を絞り込む経営判断が必要です。「すべての業界に対応」から「特定領域に深く」への戦略転換です。

ポジション3:プラットフォーム型ベンダー

業務知識をプロダクトに埋め込み、ライセンス・サブスクリプションで提供するポジションです。報酬はサブスクリプション収入。

必要な能力は、プロダクト開発力、業務テンプレートの汎用化、SaaS型ビジネスモデル運営力。

このポジションを取るには、人月モデルからプロダクトモデルへの組織転換が必要です。短期的には大きな投資負担を負います。

3つのポジションは併存可能か

理論的には、3つを併存させることは可能です。しかし実務的には、初期は1つに絞り込むことを推奨します。3つすべてを追うと、組織の意識・人材育成・営業活動がブレて、どれも中途半端になります。

経営者が問うべきは、「自社の強み・顧客基盤・経営者の意志」を考慮したとき、最初に取るべきポジションはどれか、という問いです。

実行のポイント:今期着手すべき5アクション

1. 自社案件の内製化可能性マッピング

主要顧客の主要案件について、内製化されやすい領域・されにくい領域を分類します。今後3年で内製化される可能性が高い案件は、別の収益モデルへの転換準備が必要です。

2. パートナー型受注のパイロット案件選定

既存顧客の中から、パートナー型契約に転換可能な案件を1〜2件選定し、CEO/COOが直接関与して受注を試みます。

3. FDE型人材育成プログラムの起動

内製化トレンドにどのポジションで対応するにしても、FDE型人材の育成は必須です。今期内に育成プログラムを起動し、最初の10〜30名のパイロットを開始します。

4. 業界・領域の絞り込み議論

経営会議で「自社の注力業界・領域」を議論し、2〜3に絞り込みます。「すべての業界に対応する人月ベンダー」から脱却する第一歩です。

5. 内製化を進める顧客への新提案

主要顧客の中で内製化を進めている企業に対し、人月ベースではなくパートナー型・成果ベースの新提案を持参します。顧客側にも新しい関係性へのニーズがあるはずです。

まとめ

ユーザー企業のIT内製化は、AI時代の不可逆な構造変化です。SIerにとって、これを脅威と捉えるか機会と捉えるかは、経営判断の問題です。

脅威と捉えれば、人月モデルへの執着が続き、3年後に挟み撃ちに遭います。機会と捉えれば、パートナー型・特化型・プラットフォーム型のいずれかにポジショニングし直し、新しい収益モデルを獲得できます。

内製化トレンドは、SIerに「広く浅い人月ベンダー」からの脱却を迫る外圧です。この外圧を、社内改革の追い風として活用できるかが、経営者の腕の見せどころです。


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