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DX事例 金融|銀行・証券・保険のレガシー脱却と顧客接点デジタル化の構造

金融業界のDXは、製造業や小売業とは異なる固有の構造を持ちます。①数十年にわたって積み上げられた勘定系・基幹系のレガシーシステム、②金融商品取引法・銀行法・保険業法等の重層的な規制、③高度なデータガバナンス・サイバーセキュリティ要件、④フィンテック・ネオバンク・BigTechからの新興競合圧力、の4つが、金融DXを他業界と隔てる構造要因です。本記事では、銀行・証券・保険の代表的なDX事例を整理し、レガシー脱却・顧客接点デジタル化・規制対応・データガバナンスという4つの論点軸で、自社で再現可能な進め方と組織設計を解説します。

目次

この記事の要点

  • 金融DXは「レガシー脱却(基幹系刷新)」「顧客接点デジタル化」「事業モデル変革」「データ・規制ガバナンス」の4領域で整理できます。
  • 代表事例(三井住友・みずほ・SBI・楽天証券・第一生命・東京海上等)の成功要因は、経営トップの長期コミット・段階的アプローチ・人材確保・規制との対話の4点に集約されます。
  • 金融DXの最大の難所は「レガシーシステム刷新」であり、ビジネス継続性・規制対応・コスト・期間の4軸を同時に解く必要があります。
  • 顧客接点デジタル化は、UI/UX投資単独ではなく、データ基盤・商品設計・チャネル戦略との統合設計が成否を決めます。
  • データガバナンス・サイバーセキュリティ・規制対応は、金融DXの「制約」ではなく「競争優位の源泉」として再設計すべき領域です。

金融DXの4領域|事例を整理する基本構造

領域1:レガシー脱却(基幹系・勘定系の刷新)

金融機関の基幹系・勘定系システムは、1970〜1990年代に構築されたCOBOLベースのレガシーが現役で稼働しているケースが多く、年間の保守コストが新規投資余力を圧迫する「2025年の崖」問題の中心領域です。クラウド移行・マイクロサービス化・APIゲートウェイ整備による段階的な刷新が、近年の主流アプローチとなっています。

みずほ銀行「MINORI」、三菱UFJ銀行のクラウドジャーニー、SBIホールディングスのフルクラウド志向などが、代表的なレガシー脱却事例です。

領域2:顧客接点デジタル化

スマートフォンアプリ・Webサイト・チャットボット・ビデオ通話相談など、顧客接点のデジタル化が領域2です。リテール金融(個人向け銀行・証券・保険)では、店舗・対面チャネルからスマートフォン主導への移行が急速に進んでいます。

楽天証券・SBI証券のネット証券モデル、三井住友銀行「Olive」、みんなの銀行(ふくおかフィナンシャルグループ)、第一生命「ジャスト」シリーズなどが代表例です。

領域3:事業モデル変革

伝統的な金融業の収益モデル(金利差・手数料)から、データ・AI・プラットフォーム型の新収益モデルへの転換領域です。BaaS(Banking as a Service)、組込み金融(Embedded Finance)、データビジネス、コンサルティングサービスなどへの拡張が含まれます。

SBIホールディングスの金融プラットフォーム戦略、GMOあおぞらネット銀行のBaaS展開、住信SBIネット銀行のNEOBANKサービスなどが該当します。

領域4:データ・規制ガバナンス

データガバナンス・サイバーセキュリティ・反マネーロンダリング(AML)・KYC(本人確認)・規制対応の高度化を、テクノロジーで実現する領域です。RegTech(規制対応テクノロジー)の活用、AI/MLによる不正検知、データ管理基盤の整備などが含まれます。


代表事例の構造分析|成功要因を抽出する

事例1:三井住友銀行「Olive」|顧客接点デジタル化の統合モデル

三井住友銀行は2023年に「Olive」を本格展開し、銀行口座・クレジットカード・証券口座・保険・ポイントを統合した個人向け金融プラットフォームを構築しました。スマートフォンアプリを基盤に、顧客のライフスタイルに合わせて金融機能をワンストップ提供するモデルです。

成功要因は、①SMBCグループ全体の連携を経営トップが推進したこと、②顧客体験(CX)を起点に商品・チャネル・データを再統合したこと、③スマートフォンを「主」、店舗を「補完」と明確に位置付けたこと、の3点です。

事例2:SBIホールディングス|フルクラウド志向と金融プラットフォーム

SBIホールディングスは、銀行・証券・保険・暗号資産・ベンチャー投資を統合する金融コングロマリットとして、フルクラウド志向と地方銀行との連携モデル(SBI新生銀行・SBI地方創生パートナーズ)を構築しています。

成功要因は、①既存金融機関の制約を持たないネット証券からスタートし、レガシーを最小化したこと、②グループ全体のデータ基盤を統合し、クロスセル機会を最大化したこと、③地方銀行とのアライアンスで「全国規模の顧客基盤」を獲得したこと、の3点です。

事例3:みずほ銀行「MINORI」|大規模レガシー刷新の教訓

みずほ銀行の基幹システム「MINORI」は、約4,500億円・約8年を投じた大規模レガシー刷新プロジェクトです。2019年にカットオーバーしましたが、その後複数回のシステム障害が発生し、金融庁の業務改善命令を受ける事態となりました。

この事例から抽出すべき教訓は、①大規模刷新は「技術プロジェクト」ではなく「経営プロジェクト」として、トップが継続的にコミットする必要があること、②段階的カットオーバー(リスク分散)の設計が極めて重要であること、③刷新後の運用体制・人材継承の設計を、刷新計画段階から組み込むこと、の3点です。レガシー刷新を検討する金融機関は、「MINORIの教訓」を必ず参照すべきです。

事例4:楽天証券・SBI証券|ネット証券のスケール戦略

楽天証券・SBI証券は、ネット証券モデルを徹底し、対面型証券会社からシェアを奪取してきました。手数料無料化、24時間取引、AI投資アドバイス、米国株・暗号資産への拡張など、デジタルネイティブな商品設計・運営モデルが特徴です。

成功要因は、①レガシーシステム・店舗網という「資産」をそもそも持たないことを競争優位に転化したこと、②グループ経済圏(楽天ポイント・SBIポイント)と連携し、口座開設動機を金融商品単独から拡張したこと、③スマートフォンUXを徹底的に最適化したこと、の3点です。

事例5:第一生命「ジャスト」・東京海上日動|保険のデジタル変革

第一生命「ジャスト」シリーズ、東京海上日動の事故対応AI、SOMPOケアのデジタル介護モデルなど、保険業界でもデジタル変革が加速しています。InsurTech(保険テクノロジー)として、テレマティクス保険、ヘルスケアデータ連動型保険、AIによる引受・査定の自動化などが進んでいます。

成功要因は、①「保険商品」から「顧客のリスクマネジメント・健康増進パートナー」へと事業定義を拡張したこと、②膨大な契約データ・健康データ・事故データを活用するデータ基盤を整備したこと、③スタートアップ・他業界との連携モデル(CVC・アクセラレータ)を活用したこと、の3点です。


進め方|金融DX固有の論点

ステップ1:経営戦略との接続と「攻め」「守り」の整理

金融DXは「攻め(顧客接点・新規事業)」と「守り(レガシー脱却・規制対応・サイバーセキュリティ)」の両輪で進める必要があります。「攻め」だけに偏ると基盤が脆弱化し、「守り」だけだと競争優位を失います。経営層が「攻め」「守り」の投資配分を意思決定することが起点です。

ステップ2:レガシー脱却の段階的アプローチ

基幹系・勘定系の全面刷新は、リスクとコストの観点から極めて高難度です。近年の主流アプローチは、①ホスト周辺のサブシステムからクラウド化、②APIゲートウェイ整備で新規サービスをホストと疎結合化、③段階的なホスト機能のクラウド移行、という3段階の段階的アプローチです。

「2025年の崖」を意識しつつ、ビジネス継続性を最優先に、5〜10年の長期計画で進めることが現実的です。

ステップ3:顧客接点デジタル化の統合設計

顧客接点デジタル化は、アプリUI/UX投資単独では成功しません。①データ基盤(顧客理解・パーソナライズの基盤)、②商品設計(デジタルチャネルに最適化した商品)、③チャネル戦略(店舗・コールセンター・アプリの役割再定義)の3つを統合設計する必要があります。

ステップ4:データガバナンス・規制対応の組み込み

金融DXでは、データガバナンス・サイバーセキュリティ・規制対応(個人情報保護法・金融商品取引法・銀行法・保険業法等)を、施策設計の初期から組み込む必要があります。後付けの規制対応は、コストとスケジュールを大幅に圧迫します。

「規制対応=制約」と捉えるか、「規制対応=競争優位(信頼)」と捉えるかで、金融機関のDXの質は大きく変わります。

ステップ5:人材確保と組織設計

金融DXでは、金融業務・規制・テクノロジーの3領域を架橋できる人材が決定的に不足しています。社内人材のリスキリング(既存の金融業務人材のデジタル化)、外部からのテクノロジー人材採用、デジタル子会社の設立(みずほ「みずほデジタルサービス」、三菱UFJ「Japan Digital Design」等)、複数のアプローチを併用することが標準的です。


運用設計|事業部とDX推進部の連携モデル

金融DXの運用設計では、事業部(リテール・ホールセール・市場・国際)とDX推進部(ITだけでなくデジタル戦略含む)の連携モデルが論点となります。

中央集権型のDX推進部がすべてを統制する設計は、事業部の現場感覚から乖離します。事業部任せの分散型設計は、データ・基盤の分断とコスト重複を招きます。

実効性の高い運用設計は、「中央:データ基盤・標準・ガバナンス・大規模投資の意思決定」「事業部:個別ユースケースの起案・サービス設計・PDCA」「専門子会社:高度技術人材の集約・グループ横断サービス開発」という三層構造です。

加えて、規制当局(金融庁・財務局・日銀)との継続的対話が、金融DXの運用設計に必須です。新サービス・新技術の導入時に、規制当局との事前相談を通じてリスクを低減するアプローチは、金融業に固有の運用論点です。


ROI/効果|金融DXの算定軸

短期効果(1〜2年)

事務工数削減(紙・FAX・対面オペレーションのデジタル化で30〜60%削減)、顧客対応時間短縮(チャットボット・FAQ自動化)、データ活用によるクロスセル率向上(5〜15%)、不正検知精度向上などが、可視化しやすい短期効果です。

中期効果(3〜5年)

顧客獲得コスト(CAC)の低減(デジタル取得チャネルの拡大による)、顧客生涯価値(LTV)の向上(パーソナライズ・クロスセル深化)、レガシーシステム保守コストの削減開始、新規事業(BaaS・組込み金融等)からの収益化が、3〜5年で表面化します。

長期効果(5〜10年)

レガシー脱却完了によるIT投資余力の解放、顧客接点デジタル化による事業構造の安定化、データプラットフォーム化による新規事業創出、競争優位の確立による株主価値向上が、長期効果として現れます。

金融DXの本質的な価値は、長期効果にあります。短期ROIだけで投資判断すると、レガシー脱却のような長期投資が承認されず、構造的な競争劣位に陥ります。


Ballistaが金融業界の伴走で深めてきた構造理解

ConStepを運営する株式会社Ballistaは、金融業界(メガバンク・地方銀行・証券・保険・ノンバンク)の支援を継続的に蓄積してきたプロフェッショナルファームです。戦略系・大手コンサルファーム(Strategy&/Monitor Deloitte/PwC/Deloitte/Accenture/EY Parthenon等)出身者が結集し、金融業界特有の構造――重層的な規制、レガシーシステム、組織縦割り、長期的な顧客リレーション――を熟知しています。

金融業界特有の構造を踏まえた支援設計

金融DX支援において、Ballistaが繰り返し直面してきた論点は、①事業部・IT部門・コンプライアンス部門の三者間調整、②規制当局との対話を踏まえた施策設計、③レガシー脱却の段階的アプローチ設計、④デジタル人材確保とリスキリング、の4点です。これらは、汎用的なDX方法論を金融に当てはめるだけでは解けません。金融業界固有の制約と機会を理解した上での施策設計が必要です。

代表中川の二面経験

Ballista代表の中川は、コンサルティング会社での支援経験に加え、事業会社のDX推進当事者として、現場の温度感・社内政治・リソース制約下での優先順位設定を一人称で経験しています。「外部支援者として見る景色」と「事業会社の当事者として直面する景色」の両方を踏まえた伴走支援は、金融業界の組織縦割り・長期意思決定文化を踏まえた現実的な打ち手の設計につながります。

暗黙知の形式知化メソッド

Ballista自身が、創業期から急成長フェーズで「属人化」「育成のばらつき」という構造課題に直面し、業務の暗黙知を組織として言語化・形式知化・体系化するプロジェクトを完遂しました。職階別期待値の文書化、動画・小テスト・アセスメントによる学習基盤化、3段モデル(座学+実践+発信)といった方法論は、金融機関の人材育成・リスキリング設計にも応用可能です。ConStepの金融業界向けカリキュラム設計にも、この実証メソッドが反映されています。


よくある質問(FAQ)

Q. 金融DXの最初の一歩は何から着手すべきですか?

A. 経営層レベルでの「攻め」「守り」の戦略整理が起点です。レガシー脱却(守り)と顧客接点デジタル化(攻め)のどちらに、どの順序で経営資源を投下するかが、最初の意思決定です。並行して、自社のデータ基盤の現状アセスメント、規制対応の優先論点整理、デジタル人材の現状把握を実施することが、第1四半期の標準的な進め方です。

Q. レガシーシステム刷新は、どのアプローチが現実的ですか?

A. 全面刷新(ビッグバン方式)は、みずほ「MINORI」の事例が示すように、極めて高リスクです。近年の主流は段階的アプローチで、①ホスト周辺のサブシステムからクラウド化、②APIゲートウェイで新規サービスをホストと疎結合化、③段階的なホスト機能のクラウド移行、という3段階で5〜10年の長期計画で進めるのが現実的です。重要なのは、刷新の目的を「コスト削減」ではなく「新規事業の余力創出」と定義することです。

Q. 地方銀行・中小金融機関でもDXは可能ですか?

A. 可能です。むしろ地方銀行・中小金融機関のDXは、独自の競争優位を確立できる機会です。具体的には、①地域顧客との深いリレーションをデータ化・継承する、②大手と組まずに済む特定領域(事業承継・スタートアップ支援等)でデジタル化する、③共同化(業界システム共同利用・地銀連携アライアンス)でITコストを抑える、の3点が中心論点です。SBI地方創生パートナーズ等のアライアンスモデルも有力な選択肢です。

Q. 顧客接点デジタル化で、店舗・対面チャネルはどう位置付けるべきですか?

A. 店舗・対面チャネルは「廃止」ではなく「役割再定義」が正しい論点です。日常的なオペレーション(振込・残高照会・申込み)はデジタルチャネルに集約し、店舗は「複雑な相談(住宅ローン・資産運用・事業承継)」「高齢顧客サポート」「地域コミュニティハブ」といった高付加価値機能に再編する流れが主流です。三井住友「Olive」も、店舗を否定せず役割を再定義しています。

Q. 生成AIの登場で、金融DXの考え方は変わりますか?

A. 大きく変わります。コールセンター対応、契約書レビュー、コンプライアンスチェック、与信判断、提案資料作成といった金融業務の相当部分が、生成AIによる自動化・補完の対象となります。同時に、AIガバナンス(説明責任・公平性・規制対応)が新たな経営論点として浮上しています。金融機関は生成AI活用の「攻め」と、AIガバナンスの「守り」を同時に設計する必要があり、今後3〜5年で金融DXの中心テーマとなります。


まとめ

  • 金融DXは「レガシー脱却」「顧客接点デジタル化」「事業モデル変革」「データ・規制ガバナンス」の4領域で整理できます。
  • 代表事例(三井住友「Olive」・SBI・みずほ「MINORI」・楽天証券・第一生命等)の成功要因は、経営トップの長期コミット・段階的アプローチ・人材確保・規制との対話の4点です。
  • 金融DXの最大の難所はレガシー脱却であり、段階的アプローチと経営プロジェクト化が成否を決めます。
  • 顧客接点デジタル化は、UI/UX投資単独ではなく、データ基盤・商品設計・チャネル戦略との統合設計が必要です。
  • データガバナンス・規制対応は「制約」ではなく「競争優位の源泉」として再設計する発想転換が、金融DXの本質です。

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監修:株式会社Ballista 現役コンサルタント陣(Monitor Deloitte/Strategy&/Deloitte/PwC/Accenture等出身)
出典:経済産業省「DX推進ガイドライン」「DXレポート2」、金融庁「金融デジタライゼーション戦略」、各社IR・公開情報(三井住友・みずほ・SBI・楽天証券・第一生命等)
最終更新日:2026年5月26日

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